■デジクリトーク
利潤は是か非か
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ドックイヤーと云われるネットの世界で、一月前の話をするのは笑われるかも しれませんが、今月初旬に掲載をされた、EASY岸本英司氏の「オタク=プロへ
の道」と十河進氏の「コマーシャリズムと志」はどちらも大変興味深く拝見さ せて頂きました。
それで、迂遠な話ですが、「利潤は是か非か」ということに対する一つの考え方を、備忘の為もふくめて書いてみようかな、と思いました。
今の社会、資本主義という社会は「利潤=儲け」を肯定しています。「儲ける こと」は正しいことで、単純に「儲けてもよい」という消極的な承認以上の積極的な肯定が、この社会システムの「前提」になっています。
私の知っている説に従えば、この肯定を支える論理は、「結果としての利潤の肯定」という考え方です。以下、端折り端折りの引用でその考え方を紹介します。へぇ、こんな考え方があったのか、と思っていただければ幸いです。
「隣人達が本当に必要としている或いは手に入れたく思っている財貨、それを生産して市場に出す。しかも、あの掛け値を言ったり値切ったりして儲ける、 そういうやり方ではなくて、「1ペニーのものと1ペニーのものとの交換」、
つまり、正常価格で供給する、というやり方で、市場に出す。そして、適正な利潤を手に入れる、これは食慾の罪どころではなくて、倫理的に善い行いでは ないか。いや、端的に、神の聖意にかなう隣人愛の実践ではないか。」
「営みがほんとうに隣人たちが必要としているものを供給する、そうした隣人愛の実践になっているかどうかは、市場に出した商品が売れ、利潤が得られてのちにはじめて分かることになる。つまり、利潤の獲得いかんによって事後的に判明するというわけですから、実際問題としては、結局儲かる仕事がよい仕事で、儲けがあるということが隣人愛を実践したことの判定の基準になってく
る。もし、そうであるなら、人間はむしろそういう形での金儲けを行ない、利潤の追求に努めねばならない。それはまさしく倫理的な義務だ。」
以上は、「社会科学における人間」という大塚久雄氏の著作の一部です。上のような考え方をした人々とは、所謂マニファクチャーと呼ばれる小企業主達で、熱心なプロテスタント=キリスト教の新教徒達でした。彼らは、自分達の生活というものをあげて信仰に奉げようとした指向の持ち主達で、それまでの暴利
を貪る所謂「商人」の生き方を酷く憎んでもいたそうです。
彼らは、「富を目的として追求することは邪悪の極致としながらも」「(天職である)職業労働の結果として富を獲得することは神の恩恵」と考えたそうです。
さて、上のような考え方は、単に利潤が生まれること正当化したのみならず、 どうすればより利潤を得るかにも、集まったその利潤をどうすればよいか、にも当然視点が向きます。
「有益な財貨を隣人たちにできるだけ廉価に、できるだけ豊富に供給するには どうしたらよいか。さまざまな資財と労働をむだなく、しかも合理的に組み合わせ、そこに人間労働の合理的な組織をつくりあげねばならない。」(大塚久
雄「社会科学入門」)
ということで、より隣人愛を実践するためには究極の「無駄のない経営」への不断の努力をせねばならないし、
「ひたすら勤労に励むだけでなく、できるだけ無駄な浪費をおさえ、その貯蓄をさらに投資に振り向けよ」(「社会科学に おける人間」)
ということにもなるわけです。
難しくは、「禁欲的節約強制による資本形成」と呼ぶそうですが、例として、医者から滋養のために牡蠣を食べるように進められた富豪が、それを贅沢とし て、倫理的に危険だと思ってやろうとしなかった話があるそうです。
信仰の情熱から生まれた「利潤の追求は許されないが、結果としての利潤は神の恩恵」という発想は、自分の仕事に集中する勤労の精神を生みだし、合理的経営と浪費のない拡大再生産への意思を生み出し、その二つが結び合うことで、
単なる技術提供者としての職人ではない”企業家”という人間の生き方を作りだし、正しい手段による行動なのかどうかの検証を社会として行う意思も生んだ、と言ってもよいのではないか、と思います。
まぁ、こういう説があることも、頭の隅において、お二人の意見を改めて読ませてもらうと案外面白いかもしれません。
デジクリも既に創刊されて結構な時が経ちました。読みっぱなしで消えていく のも、もったいない文が随分溜まっているように思います。たまには過去ログの再読などもいかがでしょうか?
【うおずみ・こうじ】 uozumi@mxj.mesh.ne.jp
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個人サイトはこちらに
http://mojiko.com/UOZUMI/
追伸 今回もデジタルやクリエートとは絡まない話で、本当にごめんなさい。
上のような話にご興味がある方には、以下の2冊の本をお勧めします。
M.ウェバー「 プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神 」
小室直樹「日本資本主義崩壊の論理」*多分、上の本の一番理解しやすい解説書でしょう*
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日刊デジクリ 2000/3/28 配信